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妄想


物療室(リハビリをする所)には壷がある。
と言っても、そんな大層なモノではなく(笑)高さ三十センチ位の白っぽい壷。
いわゆる実用的な壷。
そしてその壷は待合席の傍にある台の上に置かれている。
先週の初めまで、その壷にはピンクの花をたくさんつけた桃の枝がいけられていた。
が、それ以降は何もいけられてはいなかった。
それが今日になると、その壷には新しい花(付きの枝)がいけられていた。


実は今日、夕方のリハビリはイヤに混んでいて、待合席にはたくさんの人がいた。
私は二十分で待合席から脱出したものの、十分間の電気治療を受けた後、マッサージの先生待ちでかれこれ三十分は何をするでもなくベットの上で横になっていた。
する事のない私は待合席から聞こえてくる会話をそれとはなしに聞いていた。
会話の内容は『今日壷にいけられた花』について。
どうやらその綺麗な花は診療所に通ってらっしゃる方が持ってこられた花らしい。
『綺麗やねぇ』
という言葉がいろんな声で聞こえてきて、その中の一つの声が
『で、この花、何て名前なん?』
という言葉を発した。
すると一人のおじ様がしぶーい声で正解を口にした。
『ヤマブキですよ』
と――。


その瞬間、何故か私の頭の中は屋形船になり、お代官様と越後屋(←お約束)が登場し、越後屋がお代官様のお膝元に四角い箱を差し出して、お代官様はお代官様で越後屋に
『これは?』
と箱の中身を問い掛け、越後屋は越後屋でお決まりのセリフを口にする。
『ヤマブキ(もしくはカステイラ)でございます』
と――。
するとお代官様は中身の説明を受けたにも関わらず箱の中身(もちろん金色の何か)をあらためて
『そちも悪よのぅ』 ←自分が悪だと認めている。
と本当の悪人のみが浮かべる笑みで越後屋に笑いかけ、対する越後屋も
『いえいえ、お代官様程では』 ←やはり自分が悪だと認めている。
と言って含み笑いをする。
そして屋形船にはお代官様と越後屋の
『ぶわははは』
という品のない笑い声が響くのであった……。


そんなお馬鹿な妄想をしていると程なくマッサージの先生が
『お待たせしました』
と現われた。
多分先生が私を見て『?』な表情になったのは、三十分以上待たされていたにも関わらず私が何故か楽しそうに笑っていたからに違いない。
だって、あんな声で『ヤマブキ』なんて言われたら……。
こんな妄想するのって私だけかなぁ?
by id-from-bc | 2006-04-18 23:58 | 日常
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